2021/07/19 (MON)

チャプレンより聖書のことば

また、そのころは、キリストとかかわりなく、イスラエルの民に属さず、約束を含む契約と関係なく、この世の中で希望を持たず、神を知らずに生きていました。しかしあなたがたは、以前は遠く離れていたが、今や、キリスト・イエスにおいて、キリストの血によって近い者となったのです。
実に、キリストはわたしたちの平和であります。
(エフェソの信徒への手紙第2章12~14節)

立教新座中学校・高等学校チャプレン 石田雅嗣
毎年、8月が近づきますと、日本の国民は、「平和」ということに特別の関心を持つことになります。8月6日には、広島の原爆記念日、9日には、長崎の原爆記念日を迎え、そして、8月15日は、第二次世界大戦の終戦記念日を迎えます。その日から、76年が経ちますが、戦争を経験した人にも、戦争を知らない人にも、「平和」の大切さを思い起こさせる時であります。特にこの夏は、平和の祭典であるオリンピックが、コロナ禍の中にある日本でなされるということにおいて、何が起きているのかに深い関心を持ち、みせかけの平和ではなく、本当の平和に立つという毅然とした態度を表明するよう促されていると確信します。重要なのは、戦争についてもそうですが、力による「解決」は、決して解決にはならないことを、わたしたちはいやというほど歴史の中で学んできているのです。

今の状況をみると、『茶色の朝』という物語を思い出します。
『茶色の朝』は、1998年にフランスで出版されたわずか11ページの寓話ですが、「茶色」というのは、初期のナチス党が制服に使っていた色であって、ナチズム、あるいはファシズムの象徴なんです。そして、この物語の内容は、一言で言えばすべてが「茶色」になってしまう物語なんです。最初はペット、次に新聞、そしてラジオ、本、競馬のレース、服装、政党の名前、そして最後に「朝」までも・・・。語り部の「俺」は、最初は違和感を覚えます。しかし、結局「まあいいか」と考えることを停止してしまうのです。そして本屋や図書館から批判的な本が強制撤去されるという力による差別を受ける頃には、「茶色に守られて安心、それも悪くない」と「俺」は思ってしまいます。しかし、「俺」は、昔、茶色の犬ではなくて、白黒の犬をペットにしていたということが判明し、その罪で逮捕され、その時に、初めて、茶色の恐ろしさを知るという、ナチスへの反省のもとに書かれたものです。今のコロナ禍にあって、この『茶色の朝』は、とても大切な教訓をしてくれるのではないかと思います。特に、大多数の者は・・・「俺」にあたる人々であり、この「俺」は、この規制も「まあいいか」と考えることを停止してしまいます。しかし、このように、一度「茶色」にそまった一致が出来上がると、力によって正義を封じ、正義に生きようとするものを亡き者にしようとした経験は、ヨーロッパの歴史の中にあったことを自覚しなければなりません。この「まあいいか」が恐ろしいのです。

イエスさまの十字架は、まさにそれを証明しています。イエスさまはみせかけの平和を突き崩し、神の国の「正義と平和と喜び」を実現させるために十字架にかかりました。聖書をよく読むと、イエスさまの歩みは、当時、神によって選ばれた者、神との契約により救われることが約束された者、「神に近い者」というユダヤ社会の中にあって、「神から遠い者」の側に立って、見せかけの平和ではなく対立を引き起こしながら、そこで和解をし、本当の平和を樹立しようとしました。そしてその和解は、イエスさまが、「神に遠い民」として、神の恵みから排斥されたとして軽蔑した、外国人、異邦人、罪人、すなわち、抑圧された人々の立場に立ったことによって起こったことであり、イエスの登場は体制支持者たちにとって甚だ迷惑なものであったということから生じているということを見過ごすことはできないと思います。イエス様の行動は、支配者の都合のよい安定した「平和」、支配者の都合のよい社会のバランスを壊そうとし、そこから和解が生まれたのです。聖書が言っている和解というのは、この世にあって少数派である、いまたいへんな思いをしている人々、すなわち抑圧された人々の思いに共感し、連帯していこうということであったと思います。平和の器として、世界の分裂と痛み、叫びと苦しみの声を聴きとることが大切です。分裂が起きるかもしれませんが、たいへんな思いをしている人々と共に過ごすためには、どうしても必要な分裂であり、それが和解につながり、これこそが、十字架の意味なのです。例えば、戦争についていえば、結局、女性、子ども、一般市民を犠牲にし、弱い人々が犠牲になったという先輩たちの教訓にもう一度耳を傾けたいと思います。

そして、銀色の十字架を大きく掲げる立教学院聖パウロ礼拝堂が本当の平和の象徴となるように、立教新座中高に集うわたしたちも、平和の器として共に歩んでいきたいと思います。

2021年7月19日

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