そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である。人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った。ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。
(ルカによる福音書第2章1~7節)
立教新座中学校・高等学校チャプレン 倉澤一太郎
よく知られるキリスト降誕劇ではイエスは「馬小屋」で誕生したことになっていますが、典拠であるはずの福音書に「馬小屋」の記述は見出せません。ルカ福音書の「飼い葉桶に寝かせた」との記述と「宿屋」という言葉が組み合わさり、これを読んだ人たちによって救い主は暗く汚い馬小屋の中でお生まれになったという情景が思い浮かべられ伝えられてきたのでしょう。この世に遣わされた救い主を世の人びとは相応しく迎えなかったとする捉えかたはイエスの受難とも合致するため、人間の神への背きを一層強く感じさせるものとなります。ですが、その解釈では神が御子を私たちと何ら変わらない一人の人間としてこの世に遣わされ、誕生されるや奇跡を起こされた事が霞んでしまうように思われます。注目すべきは「宿屋」の訳と「飼い葉桶」の用途です。「宿屋」には他に「客間」の意味があり、パレスチナでは客に提供する「客間」を家に備えるのが当然とされていました。また庶民の家では防犯のために家畜は目の届く家の中で飼うのが一般的で、ベツレヘムのような山の町では家を広く建てられないこともあって家畜の部屋と家族の居間が隣り合うことも珍しくなかったようです。石や木で作られた重い「飼い葉桶」は家畜部屋と居間の境界に置かれて、餌やりの時間以外はその家の赤ちゃんのベビーベッドとしても利用されました。イエスの一家は「客間」が空いていなかったので「飼い葉桶」が置かれた居間へ迎えられ、その家の子が寝かされてきたベビーベッドにイエスも寝かされたのです。またベツレヘムの住民たちもヨセフの長男の誕生を祝うために周囲に集い、祝宴を開いたはずです。普段は差別を受けて町へ入ることすら拒絶されていた羊飼いたちが神を賛美する気持ちになれたのも祝宴によって町どころか家の中にまで迎え入れられ、自分たちの子どもと同様に飼い葉桶に眠る救い主の姿を見たからでしょう。神は御子の誕生によって遠ざけ合う者同士を一つ所に集めて交わらせるという奇跡を起こされることで、私たちがいつの間にか作り上げた人と人とを隔てる心の壁を壊し、遠ざけていた者と共に宴の席に着いて食事を分かち合い、喜び合う関係を築くようにとのご意志をお示しになったのです。
2023年12月4日
2023年12月4日
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